| トラックバックURL: | http://jemi.s5.xrea.com/mt/mt-tb.cgi/2 |
なんだか、寂しいから、ホルガー・シューカイのインタビュー記事をブログ化してみました。（＾＾；
自分の体験に根ざした音楽、社会感を率直に語るホルガー・シューカイ
聞き手＝坂本龍一
――今回、日本に来た目的は遊びですか、仕事ですか。
両方です。人に会いたかっただけです。
私にとって人と会うのは一番面白いことなのです。
――今まで人に会って成果がありましたか。
どんな人でも面白い。
世界一のバカでも必ず自分にないものを持っているから、
何かしら学べることがあります。
――ドイツにもそういう人はいっぱいいると思うけれど、
日本人との出会いで何か面白いものがありましたか。
ええ、ありました。私には日本人の妹がいます。
〔ドイツ在住のホルガーの友達。彼は彼女をいつも妹と呼んでいる〕
10年前から彼女とつき合ってて、その間日本へ行く用意をしてきました。
来てみたらすべてが新しくて、具体的に何が面白かったか説明するのが難しいけれど、
話しているうちにそれが何だか分かるでしょう。
日本の第一印象は、かなり保守的な感じがしたということでした。
1950年代のドイツでの子供の頃を思い出しました。
親子関係は、あの頃のドイツと似ているような気がします。
私が育った家庭環境は、仲良く、けんかなどしませんでした。
今のドイツ人に聞くとみんな悩みばかり持っていて、夫婦の間にも、
親子の間にも悩みがあるという。
もちろんそればかりではないけれど、傾向としては気になります。
――そういう傾向は、都市化とともに日本にも、ヨーロッパにも、アメリカにもあるけれど何故でしょう。
5年前にバンコクを訪れた時に偶然、お葬式があって、
最初はお祭りでもやっているのかと思いましたが、
ある女の人が死んで、家族がみんな集まって三日間お葬式を続けていた。
一週間後、香港へ行くと、また偶然お葬式があった。
香港の方はバンコクと比べて気が減入る感じがしました。
香港の人に聞いたら、やはり都市化のために家族関係が悪くなってきたと言ってました」
――みんなトラブルを好んでないはずなのに都市化などに打ち勝てないひ弱さが感じられるけど、
それについてはどう思ってますか。
若者が打ち勝たなくちゃだめです。それしか希望がありません。
ドイツでみんなそれぞれの道を歩み始めて、
オルタナティヴな生活を送っているのを見ると、気になることもありますけど。
大切なのはゴミの中を抜け出すことです。
ゴミからまたゴミを作り出すことの方が多いかもしれませんが、
ゴミの中から出てきてもゴミを超越したものを作らなければなりません」
――結婚してますか。
してません
――子供を作って、育てる気はありますか。
若い時はね。
昔は、 一般の日本人の銀行員と同じような夢を抱いてました。
要するに結婚したり、子供を二人作ったりといったような。
もちろん銀行になんか勤めていませんでしたよ。
家の中にいて音楽を作ってましたが、テクニックのことしか考えていませんでした。
電波にも強い関心を持ってて、
媒体を通じて全世界を家の中に持ち込もうとしてました。
部屋の中のどこを見てもテレビや発信機やいろんな機械が置いてある様子を頭の中で想像してました。
20年たった今、それが実現してしまいました。
実現しなかったのは結婚だけ。
何故かと言うと、掴まるのがイヤだったのです。
誰かが部屋の中にいると狭く感じたり、圧迫感を覚えたりするからです。
――これからはそういう希望を持っていますか。
捜してはいません。与えられるならば喜んで受け取りますが、このままでも私は幸せだと思っています。
毎日、起きるとカフェヘ行って、そこにいる人たちと会って話したり、
いわゆる普通の生活を送ってますが、家に帰る時はいつも一人で、
仕事をする時もエンジニアも使わず一人です。
でもカフェにいる連中の多くは恋をしたり悩んだりする。
悩むのは相手をしばって自分だけのものにしようとするからです。
二人の人間関係が、
原子爆弾の二つの原子が融合して爆発するという状態じゃないと、
二人とも不幸に終わってしまいます。
――あなたが社会に対して持っている意見と音楽と何か関連がありますか。
私にとって社会というものは存在しません。
自分と他の人しかいません。もちろん社会は存在しますけどね。
私にとって音楽は常に絶えない流れです。
どこにでも見出せるものでこの部屋の中にもある。
このインタヴューの内容でも音楽に変化させることもできます。
普通のおしゃべりでも、どんな音でも音楽になりうるのです。
うちのドラマーであるジャッキー（・リーペツァイト）は、たとえば部屋にいて、
ただ黙っていて突然ラジオとつけるのですが、
内容は全然気にせずに、ただゆっくりとダイアルを回したりします。
それにすごく影響を受けました。
どんなものを使っても音楽を作れることが分かりました。
一番いい例はリー・ぺリーです。
――サイモン・ジェフスはあなたととても良く似た考えを持っているみたい。
回りの環境に対して非常に敏感です。ほとんどの人は、
ラジオやテレビから流れてくるものだけを音楽だと思っているけれど、
実はそれも生活の中で音楽を作っているわけで、気がつかないだけです。
その通りです。ミュージシャンとは何だという質問は、すべきです。
メチャクチャ早弾きできるからミュージシャンなのかといったように。
――ぼくもそう思うけど、日本に限らず世間の人はそう思っていないらしいです。
もちろん早弾きのできる人もミュージシャンじゃないとは断言できません。
たとえば、一秒に10個の音を蝉いたら、
その10個の音がそれぞれに必然性がないといけません。
竜安寺の石庭みたいに、二つの石がどんな意味を持って並んでいるのか分からないが、
必然性が感じられればそれでいいのです。
私がレコーディングする時は、郎興に近い演奏をして、
そのプロセスは非常に速いのですけど、出来上がったものを聞いて、
無駄な音が多いことに初めて気がつきます。
パッハの音楽を聞くとすべての音が建物の一つの石のような存在でその一個でも取り去れば、
建物はくずれてしまう。
そういう意識を持つことは素晴らしいと思います。
普段はどこへ行ってもバックグラウンド・ミュージックばかりが耳につくので、
最近はそれを避けるようにしてます。
そういう音はガンの元なので、人が病気になるのはあたりまえ。
ミュージシャンは沈黙をよく聞いて、 一つだけの音の重要性が分からなくてはいけません。
――ぼくは東京で生活してて、そういうイヤな音から身を守ることが大変だと思うし、
普通の人はそれほど注意深くないからなおさら大変でしょう。
カナダでメアリー・シェーファーという作曲家が、
そういった音公害に対する訴訟を起こそうとしていること、知ってました？
その人は知らないけれども、
シュトックハウゼンがかつて考えていたものを今、思い出しました。
マイクとスピーカーから成る機械で、それを新宿か渋谷あたりの街角に置くと、
回りの音を拾って逆位相で再生します。
結果的に音はなくなるわけです。この発想は最高だと思います。
街のどこかにちゃんと沈黙の場があったらどんなにいいものか。
そして昨日の新聞で日本人の科学者がレーダーの電波を吸収する機械を作った記事を読みました。
アメリカ軍でも似たようなものを作ろうとしているらしいですが、
日本のものほど性能がよくないから、
非常に興味を示しているそうです。
そういう機械を飛行機やロケットにつければレーダーでそれを探知出来なくなります。
それが出来ればシュトックハウゼンが半ばファンタジーのように考えていた機械も出来るかもしれないでしょう。
――人間それぞれに必要な音があって、
耳に欲しい音だけを入れて他の音をシャット・アウトする能力があると思う。
自分に必要ない音を防禦する、
でもその防禦に対する者の責めがキツイもんで耳に馴れ易いから、
違う環境にいたら必要としている音も聞かなくなるかもしれない。
ぼくもある程度そういう傾向があるし、
意識してないところで聞いてしまったりしてイタメつけられています。
音一般じゃなくて、音楽というもの、
レコードという形とかメディアなんかで音楽というものを作ると少しまた次元が違うとぼくは思うのですが、
その違いは、あなたの場合あるとすれば、音に対する感じ方と音楽を作る時とどう違いますか。
メディアは美しい公害しか流さないわけですか。
本当はメディアが好きですよ。
子供の頃から大好きだけど、
時にはスイッチを切ることも大切だとだんだん分かってきました。
――ぼくもレコードを作っているから、
ある人にとってはスイッチを切られるような音の公害にもなりうるでしょ。
音を他人に提供しているわけだから、そういうことも考慮に入れてますか。
もちろんです。
私の経験では、私の音楽を初めて聞く人はたいてい嫌うみたいです。
嫌うといっても、もう一回聞く興味を持たせるような音楽だから、二回目は絶対私の勝ちです。
その後も毎回聞くたびに私の勝ちが大きくなる訳です
――感じ方が似ていますね。
『ムーヴィーズ』の録音を終えた後に、
ドイツのEMIに持って行って聞かせたら、断わられた。
一緒にいたマネジャーが、本当にいらないの、と聞いたけれども、
私がマネジャーを押さえて、どうせ一発では勝てないからと。
その通り、EMIがもう一回聞いたら、そのレコードを出すことに決まりました。
――話題が変わりますが、何年生まれですか。ぼくは1952年生まれです。
1938年生まれで今44歳。寅年です。寅年のおひつじ座。
両方火の座です。
私はそれ程、占いとか気にしませんが、
火は私にとってすごく重要なものです。
私が生まれたのはダンツィッヒで、今は名前が変わってグダニスク。
1945年にロシア軍が来て逃げたけれど、逃げたのは東ドイツでした。
泊った村にアメリカ軍が来て、また彼らが去り、 ロシア軍が再びやって来ました。
その時、私は7歳でした。武器がどこにでもころがっていて、
一緒に住んでいた他の何人かの子供全員に銃とヘルメットを渡し、
ロシア軍が占拠している学校の武器が置いてある所にみんなで行きました。
その時、私は白い旗がどんな意味を持つのかも知らずに、白い旗を持ってて、
その学校の前に立ってたロシア兵に銃を向けたからその人は何が何だか分からずにいました。
そして学校に火をつけて、完全に燃やしてしまったのです。
その後、家族はみんな牢屋に入れられて、私とお母さんが、
火をつけたマッチをどうやって手に入れたのかと、
一週間ずっと尋問されました。
もし母親にもらったと言えば彼女が罰せられるわけですが、
私は道で拾ったと言い続けました。
本当はお母さんの引出しの中からとったものです。
自由になったとたんに西ドイツヘ逃げて行ったけれど、
その時私は突然その事件のショックを受けて自慢に思うべきか、
恐怖を感じるべきか迷ってました。
次の日はすごく天気が良くて回りの焼け跡の中でくずれかけた低い壁があって、
壁くずれに注意というサインが置いてあった。
それを見るとその自慢と恐怖が心の中で混じり合って何とも言えない気持だった。
西ドイツに移ってから我々は、丘の上の家に住んでたので、
とても急な坂道がありました。
その時私の持っていたオモチャは2この空きかんだけでした。
ある日、空きかんを道で放したらころがり始めて、
それを見てころがさないのに何でころがるのか不思議に思いました。
何日かずっと興味深く空きかんで遊んでいました。
ある時、アメリカ軍のでかいオイルかんを見つけて、
これをころがしたらメチャクチャおもしろいなと思い、
丘のてっぺんまで持って行ったのです。
そこは森の中で道がクネクネとまがっている所でした。
オイルかんを放したら、すぐ木にでもぶつかるんじやないかと思ったら、
マジック・ハンドがオイルかんを案内しているように何にもぶつからずに
コロコロとだんだんスピードを増しながらころがって行きました。
突然ぶつかった音がしたけれど、
私はまだ丘の上にいるからどうなったのか見えませんでした。
追いかけて行ったら、うば車に衝突してコナゴナになっていました。
その時子供が乗っていなくてよかった。
そんな子供の時の経験でもすごく強い印象を受けました。
――それ以来そんなことはしていないの。
いや、またありました。
5年位前、ぼくとカンの間があまりうまくいかず、アジアに行こうと思ってました。
ちょうど植物に対するテレパシーが強くなっていた頃で、
ドイツではそういうことを分かってくれる人がいなくて、
もしかしたらアジアの方では分かってくれるんじゃないかと。
何故かと言うと、ブッダが悟ったのは木の下で、
彼が木の言葉が分かったからこそ悟ったのだと思ってました。
どこかのお寺に行ってお坊さんに説明してくれるように頼むつもりでした。
その時、私はすごく迷ってて、 いろいろと悩みの多い時期だったけれど、
アジアヘ行ったらお坊さんたちは温かく歓迎してくれました。
次に香港へ船で行ってお寺に泊ったけれど、
そこのお坊さんは私に、あなたは何かを発見したようだけど、
それは何か、と聞いた。
何を発見したのか彼に答えたら、その日の夜、
街にいるドイツ人の家へ連れて行ってくれました。
そのドイツ人は香港ではかなり歓迎されている存在で、
小さな印刷所で働いている人でした。
中国人の女性と何人かの子供と一緒に仏数の教典を印刷してました。
彼は私に、何でここに来たかと聞いたので、
誰か話が出来る人を捜しているんだと答えました。
その男は、外にあるあの植物のことをどう思うかと言ったので、
弱っているようだけどそのうち治ります、
と答えたら、よし、君はここにいていいと言ってくれました。
三日間位そこにいたけど、彼は何も教えてくれなくて、
ただ私が言うことを聞いてくれただけてした。
最後には私に、
君は何も知らないんだ、君は生まれ変わった子供のようで、
これからいろいろなことを知るのだ、
と彼が言いました。5年たった今も、
私には生まれ変わった男が初めて世に出ている感じがしています。
――それから何か見つかりましたか。
ええ。でもまだ今も修業中なのです。
――ぼくにはそんなスゴい経験がなくて、対抗して話を持ち出せないから、また話題を変えましょう。
――本から影響を受けたことはありますか。
いや、本を読むのは大嫌いです。
私は非常にゆっくりしか読めず、
一度に3行も読めぱ十分だから聖典を読むのが一番いいようです。
ホテルの部屋に2冊の本が出いてあります。
一冊は聖書で、もう一冊は仏典です。
昨日寝る前に、ブッダが何を教えてくれるだろうかと、
通当に仏典を開いてみて、
読んだところは私にとっては全くそのとおりと思われる箇所でした。
そのまま本を開じて寝ました。
もう一つ好ききなものといえば
電気回路です。
決して意味が分かる訳ではありませんが、
漢字を見るような気持でずっとえていられます。
瞑想のようなものだね。
自宅のスタジオは、全部自分一人で作ったものです。
どういう風に作ったかは覚えていないけど、とにかく出来てしまいました。
一度オシロスコープも直したことがあります。
回路を一週間ほど毎日見てて、
突然一か所をちょっといじったら完璧に直ってしまった。
あとでエンジニアがそれを見て、どうやったのかと言っていたが、
自分でも説明出来ないのです。
葬儀屋から20年前のテレフンケンのテープレコーダーを4台買いました。
これらは世界一のテープレコーダーではないかと思ってます。
もちろん真空官のものです。
卓も買ったけど、それは7チャンネルしかなく、
ヴォリュームの調整は大と小しかありません。私にピッタリ。
一年間その卓を部屋の中に置いて音楽を作るのに疲れた時に、
リラックスするため、卓の中を眺めていた。
中がどうなっているかまるっきり分からなかったけれど、
ある日突然すべてが分かりました。
私が持っているテープレコーダーは特に編集に最適なものだから、
どんなコンピュータ―よりも私の編集の仕方の方が速い。
洗練されたデジタルの機材なんか、私には全く不用です。
電話器でもそのプログラムの仕方さえ分かれば、最高の音再生装置になりうる。
10年前、カンのステージで電話とかラジオやテレビのようなものを使って、
いろいろと実験してみました。
ハイ・フィデリティばかり考えるのは大間違いです。
電話器は音質が悪いからこそ面白いのであって、
その音の悪さを生かすための想像力が大切なのです。
――あなたの音楽には、かなリリリカルな部分が、メロディにも、
音色にもあるみたいですが、その辺で影響を受けた音楽がありますか。
あります。子供の頃はクラシック音楽をよく聞いてて、
先生がいつも弾いてたのがモーツァルトでした。
後でジャズが好きになりました。
私にとってクラシックとジャズは、どこか合わないところがあったから、
クラシックを全然聞かなくなりましたけど、
結局ジャズにも満足し切れないことが分かりました。
何故かと言うと、ちゃんと考えて使われてない音が多すぎるからです。
音楽って作曲するものだといつも思ってました。
楽団が一緒に演秦する時の感じ、
特に交響楽団は子供の頃から好きでした。
私は、交響楽団のベース奏者になるはずでしたが、
給料をもらって音楽を演奏するという楽団の制度が嫌いでやめにしました。
言われたとおりに音楽を作るのがイヤで、
結局すべてを一人で演奏することにしたのです。
楽団のために作曲するつもりでやってます。
私の音楽はかなり、オーケストラルだと思うし、
カンはいかにもオーケストラという感じのグループでした。
ソロイストが全くいません。
たとえばジャッキーはよくソロを取るように勧められたけれども、
本人はそういうことに全く興味がありませんでした。
――ぼくも似てます。汗流してソロを弾くより、
音を重ねてちゃんと構成された音楽を作る傾向があります。
最近の若いミュージシャンには、 そういう人が多いでしょう。
ただいつも間違えるのは、音楽を作る時、
最初に何かテーマがあって、
それを細かく整理して録音する方法を取りますね。
私の場合は、録音する前のアイデイアなんて、全然頭の中にありません。
アイディアがあれば音楽は出来ないのです。
――今日は、空きかんの話とか、面白い話をたくさん聞かせていただいて、ありがとうご ざいました。
〔6月18日 東京プリンスホテルで〕